April 23, Saturday, 2016
<ギフト>
 3月末に、登記簿登録証明書も届き、4月いっぴからいよいよ大工さんが入ってリフォーム工事が始まった。わずか10日ほどで、基礎の締め直しも防蟻も下張りも済んで、半分以上の部屋の床が出来上がった。14日にはユニットバスが届いて設置された。アツロウはヒマがあれば、今の住まいから近いので、新居をちょくちょく覗きに行っている。和奈はそれについてって、庭にある3本の金柑の木から実をもぎっては食べている。二人ともずいぶんと新居が気に入っているようで、本当に良かった。
 そろそろ引越しの日取りも考えなければならなくなってきた。これから本当に忙しくなりそうだ。ところが、ここに来て、私には、また引越しが思うようにいかなさそうな事情が出来た。今の物件が気に入って、それぞれの両親にも見てもらい、OKサインが出、よし!契約しよう!と決めた翌朝の2月1日のことだった。

 なーんとなく・・・。いや、ないとは思うけど、どうにも納得いかないから一応チェックしてスッキリしとこうと思って買った妊娠検査薬に、陽性反応が出た。朝、起き抜けにリビングでひとり、
「ええええええ!!!???」
と叫んでしまった。
 もうないと思っていた。和奈に兄弟が出来たらいいなぁと、ぼんやり願ってはいたけれど、思うように出来るわけでもなし、もう和奈を産んでから5年空くし、私も今年45歳になるし、さすがにもう子育てムリでしょう。と思って、チャイルドシートの譲り先を決めて、衣服を整理して、4月のバザーに全部出す予定をしていた。なのに、ここに来て、妊娠!?
 またたく間に大騒ぎになった。アツロウは、2回の流産経験と出血大事件の前歴のある私に、もう動かないでくれと言うし、でも2月3日から和奈の直腸ポリープの内視鏡検査のための入院は決まっているし、その頃から激しいつわりに襲われるし、私の二人の祖母の三回忌があったのを断るのに実家に知らせたら、そこからも動いてくれるなと言われるし。
 幼稚園の送り迎えも、ままならなくなった。立ち上がるだけで、えづく。気分が悪い。頭が痛い。それでも日々は過酷にやってくる。安定期を迎えるまでもつかどうかも分からないので、人には言えず、毎朝あおーい顔して幼稚園の送りをやっていたのに、ある朝の園庭にて、年少さんのクラスの前の階段で、突然ぎっくり腰に見舞われた。エ?と思ったら、もうガクガクガク・・・っとしゃがみこんで、1mmも動けなくなった。痛みで顔をくしゃくしゃにして脂汗をかいている私に、
「柴田さん・・・さっきからそこで動かずにいるけど・・・なんかあったの?」
と、先生が声をかけながら、毛糸の帽子のつば下の私の顔を覗き込んだ。
「多分・・・ぎっくり・・・腰、かなぁ・・・。すみません。今1ミリも動けません。」
嗚呼、泣き面に蜂とは、正にこのこと。いつも幼稚園に一番乗りくらいの時間にいっていた私は、結局その日登園したすべてのお母さんやお父さんがたに囲まれて、大騒ぎになった。結局アツロウにママチャリで駆けつけてもらい、私が乗ってきた車を園庭まで乗り込ませてもらって、父兄と先生5人がかりで車に担ぎこんでもらった。
 さぁ帰ろうとなってから、4階までの階段が上がれるはずのないことに気がついた。どうしようもなく、そのまま病院へ。そして、妊婦のために痛み止めも打てず、コルセットも出来ず、歩くことも出来ない私は、単なるぎっくり腰で1週間も入院することになった。2人目の妊娠は、こうやって、またまた大騒動で始まった。

 結果、義母、妹2人、母の4人に、交代で来てもらい、家のことをお願いすることになった。湿布1枚貼れないぎっくり腰は、想像以上に長引いて、普通に家事が出来るようになるまでに、2週間はかかった。えづいても、くしゃみをしても、笑っても、何しても電流のような痛みが腰に走った。3月はこうやって始まり、腰が治ったころから、胎児の染色体異常の検査に、京都の桂まで通った。
 65歳で20歳を迎える子供がダウン症だと、その子の人生に責任をもてない。あとは和奈にすべて覆いかぶさることになる。それはさすがに出来ないので、染色体異常があった場合は、諦める。そう決めていた。そうして受けたベビードックの血液検査で、見事に21トリソミーが引っかかった。つまりダウン症の可能性ありということだった。ただ、ドクターいわく、40歳を越えると多くの人がひっかかるということなので、もっと詳細に、はっきり答えの出る検査を勧められた。羊水検査か、絨毛(じゅうもう)検査だ。羊水検査は広く知られているけれど、絨毛検査は知らなかった。要するに、胎児を包んでいる袋の内側のひだのある部分(絨毛)の組織を少しだけ削り取って検査するというようなもので、赤ちゃんを形成する組織と同じ反応が出やすいというのだ。これだと羊水検査と違って、胎児に対するリスクも低く、早い時期に検査が可能になる。ただ、それでも結果がハッキリしない場合は、やっぱり羊水検査をしないと確定はしないということだったが、この際何でもよかった。血液検査の結果をもらったその日に、絨毛検査を受けて帰った。
 結果、異常なし。つまり、とりあえずダウン症の可能性は免れたことになった。そして、検査の結果、お腹の赤ちゃんが男の子だということもハッキリした。

 妊娠は、いたって順調。今までのような出血も痛みも皆無。ただ、今までで一番、つわりがひどかった。ひどい日は、起き上がるとえづくという状態で、何も出来なかった。したがって、アツロウがとても忙しくなった。ラッキーにも、職種上、月〜金の勤務形態でもなく定時もない。その上3月は、春休みときていたので、幼稚園の送り迎え、買い物や和奈の入浴担当は、ほぼアツロウの仕事になった。それでも男の子と分かると気合の入り方が違うようで、フットワーク軽く、文句も言わずに動いてくれた。
「今度の家は、その子が持ってきたんかもしれんな。」
と言いながら。

 本当に、今年はすごい幕開けになった。こんなに早く、マイホームが手に入るとは思ってもいなかったし(それどころか手に入る日が来るかどうかさえ、怪しかったのだから)、まさかのまさか、2人目に恵まれることになるとも思ってもいなかった。もうすっかりさっぱり諦めた後だったから。そしてまさかの男の子。この年になって、大きな仕事を背負い込むことになった。でも、なんて幸運な大仕事が舞い込んだものだろう。予定日は10月3日。
気合を入れなおして、頑張ろうと思う。神様からの最高のギフトを、生涯かけて大切に守っていこう。