May 5, Thursday, 2016 |
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重なる波の中空(なかぞら)を 橘(たちばな)薫る朝風に 高く泳ぐや鯉のぼり なんとも清々しい、美しい風景を描写した唄だなぁと思う。これが3番まであるなんて、知らなかった。 今年のゴールデンウィークは、私がイマイチ体調がすっきりしないこともあって、和奈にとっては退屈至極な連休になった。ひどい日は、一日中外に出ず、ベランダでしゃぼん玉遊びするか、砂遊びをする程度。公園に行こうよォ。と言われても、公園までの10分の道のりがキツく感じる私は、ゴメン!と言って横になる。人生で、これほどゴロゴロした日々を過ごしたことがなく、こういうことが本来嫌いな私でさえ、動く気力が働かないということは、動くなということなのかなぁと、今回は素直にそれに従っているせいもある。 アツロウがずいぶんと協力的に、和奈を買い物に連れ出したり公園に連れてってくれたりもしたけれど、仕事でそれが出来ない日だってある。幼稚園はないし、お友達にも会えないし。も〜かっちゃんゴールデンウィークなんか、大嫌い。と言われてしまい、そりゃそうなるよね。と、申し訳なく思う始末。 4日の日に、朝からちょっと体調が普段どおりな感じがしたので、よし!と頑張って腰を上げてみた。ダメなら帰ってくればいい。車で20分ほど走った米原の山奥に、養鱒場がある。五月晴れだし、あそこなら木陰も多いし水辺だし、ぶらぶらお散歩するにはちょうどいいかなぁと思って、私も行ってみる気になった。 思ったほどの混雑もなく、50円で買える小さなエサ袋を和奈に買ってやると、きしょくが悪いほどマスのいる池堀に、パラパラとエサを落とす。とたんに水が黒くもこもこと盛り上がって、ものすごい水しぶきが起こる。30センチほどのおびただしい数のマスがエサを取り合うからだ。その度迫力に、キャー!!と大喜びの奇声を上げながら、あちこちにある池にポロポロとエサを撒いていく。結局エサ袋は3袋買わされ、足元近くでエサを落とすので、和奈の膝下はぐっしょり濡れた。 そうやって、養鱒場の奥のほうまで歩いていくと、一番奥にたくさんの親子が群がっている。何をしてるのかなぁと覗くと、釣堀になっていて、竹ざおにエサをつけて入れるだけであっという間に大きなマスが釣れるみたいなのだ。これはもしかしたら和奈でも出来るかもしれない。そう思って、釣堀の入り口に行って、聞いてみると、お母さんがついてたらいけると思いますよ。とのことだったので、早速入ってみた。 パパの釣りを横で見てることはたくさんあったけれど、自分が竿を持たせてもらえるのは生まれて初めて。それだけでもかなりの興奮度だったが、1回目。一緒に竿を持たせて、川のように細長い釣堀の中程めがけて糸を垂らしたとたん、もうエサが見えなくなってグッ!と引っ張る感触が伝わってきた。うわ!と私も思わず声が出て、グググーっと引っ張ったら、30センチを越えるような大物が釣り上がってきて、すごい力で暴れまくっている。突然の出来事に半ばポカーンとなった和奈だったけれど、これはイケる!と思った私は、 「次、かっちゃんだけでやってごらん。しーっかり持ってるのよ。お魚に竿取られないように。」 と言って、竿を持たせた。そして、もらったエサにしっかり針を食い込ませて錘(おもり)がついている当たりを持たせ、川の真ん中にエサを落としてごらん。と言うと、思ったより上手に竿を動かして、糸を垂らした。・・・・なんて言っている暇もないほどのスピードで、水の中に沈もうとしたエサがパッと消えたが早いか、和奈の竿がぐっと引っ張られた。
身長が100センチほどしかない彼女にとって、30センチほどの魚は、パパが60センチを釣り上げるのと同じほどの衝撃だ。言葉も出ずに足を踏ん張って、ほっぺを紅潮させてブルブル震える竿を握って脇を締める。みごとに30センチ越えのマスが上がってきた。 「すごいやーん!見て!これ、かっちゃんが釣ったんだよ!すっごいね!!」 と言うと、もう興奮しすぎて目の色が変わっている。後方でちゃんと長いナイロンエプロンをしたおじさんが待ち構えていて、連れた人の竿から上手に魚を外してくれるので、それを与えられた網に入れて釣堀に浸けておく。魚が外れたとたん、 「次!!もっかい!もっかいやる!!」 と急き込んだ。よし分かった。あと1回だけね。と言って、またエサをつけてやると、もう何も言わなくても上手に糸を垂らした。案の定、また30センチほどのマスが上がった。 「嗚呼!なんで今日パパ来なかったの!?すっごく面白いのに!パパ、絶対やりたかったと思う!かっちゃん見せたかった!!」 と言うと、あともう一回だけ。お願い!と、食い下がって言うことを聞かなかった。釣堀のルールで、釣り上げた魚はすべて1グラム1円で買わなければならない。これは下手すると3000円越えるな。高い夕食になるなぁ!と思いながらも、あまりの興奮度合いに、私も嬉しくなってしまって、オーケーした。 結局、30センチ前後のマス4尾と箱+氷代にて、2700円。あちゃー!と思いながらも、唯一のゴールデンウィークでの娯楽出費で、これだけの喜びようなら良しとするしかなかった。 その後も、足をつけられる浅い池でチョウザメを触ってみたり、晴天といってもまだ泳ぐには寒すぎる水の中で、足が氷のように冷たくなって痛くなるまで遊んで、大、大、大満足にてのご帰還となった。そして帰ってからの、パパへの報告の時のドヤ顔といったらなかった。自分一人で釣り上げたということが、大きな達成感となって、大人にでもなったかのような口ぶりで、釣りの時の衝撃などを伝えていた。 「そっかぁ!パパも行きたかったわぁ!今度またかっちゃん、一緒に行こうか。」 とアツロウが言うと、うん!じゃぁ明日ね!と瞳を輝かせるので吹き出した。 百瀬(ももせ)の滝を登りなば 忽(たちま)ち竜になりぬべき 我が身に似よや男子(おのこご)と 空に躍るや鯉のぼり 和奈は男の子ではないけれど、この頃の子供の成長の勢いって、本当に滝登る鯉のようなパワーがあるなぁと、新鮮な感動を覚えたこどもの日。 |